日本の企業会計原則は、一般原則、損益計算書原則、貸借対照表原則という3つから成り立っています。今回はその中の一般原則についてちょっと気合いを入れて、1つ1つ書いていきたいと思います。僕がこの一般原則を初めて勉強したのは、高校生の時でしたね。商業高校に行っている人は分かると思いますが、全商簿記検定1級です。全商の資格はちょっと難しい割には、高校を卒業すると全く使えない資格ですね。
一般原則は、企業会計の全般に関わる基本的なルールであり、損益計算書と貸借対照表の両方に共通するルールを示したものです。ですので、具体的な会計処理と表示の方法を規定する会計規定について、その根拠を明らかにし、体系づくりを行うのに役立つ点で、演繹的アプローチにおける重要な基準となるルールとなっています。
企業会計原則では、7つの一般原則があり、明文化はされていないものの「重要性の原則」も重要だと思うので、合計8つの原則について書いていきたいと思います。
①真実性の原則
真実性の原則は「企業会計は、企業の財政状態および経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない」というものです。
ここで言う「真実」とは、絶対的な真実性ではなく相対的な真実性です。と言われても良く分からないと思うので、絶対的な真実性と相対的な真実性についてちょっと書いておきます。
○絶対的な真実性
絶対的な真実性は、1つの会計取引について1つの会計処理しか認められておらず、仮に全く同じ会計取引をした企業があったならば、それはすべて同じ財務諸表になるというのが絶対的な真実性です。これには完全に統一された基準が必要になりますね。
○相対的な真実性
相対的な真実性は、1つの会計取引について、一般に公正妥当と認められる会計基準に従っていれば、複数の会計処理が認められるものを言います。つまり、一般に公正妥当と認められた会計基準に従っていれば、その結果は真実であると考えられます。先ほどと同じように、仮に全く同じ会計取引をした企業を想定した場合でも、例えば原価償却の方法を定率法・定額法どっちを使うかによって財務諸表の数値は変化しますよね。でも、この方法は、一般に公正妥当と認められた会計基準に従っているので、2つとも真実であると言えるのです。これが、相対的な真実性です。
そして、この真実性の原則は企業会計の最高規範として位置づけられており、他の原則が守られることによって、真実性の原則も守られることになります。
②正規の簿記の原則
正規簿記の原則は「企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則にしたがって、正確な会計帳簿を作成しなければならない」というものです。
正規簿記の原則では、記録の網羅性・記録の検証可能性・記録の秩序性を備えた会計帳簿を作成しなければならず、その会計帳簿から誘導法によって財務諸表を作る必要があるというものです。簡単に言ってしまえば、こんな感じですが、これも良く分からないと思うので、これに関してもちょっと説明を加えていきます。
○記録の網羅性
1会計期間に発生した取引は、すべて漏れなく記録されなければならないということです。
○記録の検証可能性
取引の記録は、正当な証拠書類に基づいて行われなければならないということです。
○記録の秩序性
記録は、秩序正しく組織的に継続して行わなければならないということです。
○誘導法による財務諸表の作成
記録の網羅性・記録の検証可能性・記録の秩序性を備えた会計帳簿から財務諸表を作成しなければならないということです。
これらの要件を満たす帳簿記録の方法は、複式簿記と考えられます。
③資本と利益の区別の原則
資本と利益の区別の原則は「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない」というものです。
先に資本取引と損益取引について書いておきたいと思います。
○資本取引
資本取引は、出資者による追加出資や資本の引出など、純資産を直接的に増減させる取引です。
○損益取引
損益取引は、営業活動等を通して利益の獲得を目指し、その結果として純資産を間接的に増減させる取引です。
この原則では、適正な利益計算や元本として社内に拘束すべきもの(維持拘束性)の不当な社外流出を防ぐのと同時に、財政状態・経営成績を適正に表示することを求めています。これでもちょっと分かりにくいかもしれないので、もっとざっくりと言ってしまえば、これらが混同してしまうと実際にはいくら稼げたのかが分からなくなってしまったり、出資者から投資をしてもらった資金で配当するなど良く分からないことが起きてしまう可能性を防止している感じですかね。これをやってしまった財務諸表なんて正確だなんてありえませんよ。
④明瞭性の原則
明瞭性の原則は「企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない」というものです。
これは、財務諸表の表示形式・会計情報の開示に関する原則で、情報利用者に対して財政状態や経営成績に関する判断を誤らせないように、会計情報の明瞭な表示と開示を求めています。具体的な例としては以下のようなものがあります。
・一定の基準に従った区分表示をする
・費用と収益、資産と負債の項目を相殺せず、すべてを表示する(総額表示)
・貸借対照表・損益計算書を作成するときは、詳細すぎるものではなく概観性を与える
・注記により財務諸表本文に対する補足説明を与える
・財務諸表付属明細表により、概観性を与えた貸借対照表・損益計算書を補足するための細目表示のために作成する
などがあります。また明瞭性の原則には量的側面と質的側面に分けて考えることができます。量的側面では、情報に概観性求めていたりします。他方、質的側面では、会計方針の明示や後発事象の開示をあげることができます。
⑤継続性の原則
継続性の原則は「企業会計は、その処理の原則および手続きを毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してならない」というものです。
継続性の原則が問題となるのは、複数の会計処理がある場合です。相対的な真実性でも出しましたが、減価償却の方法などは良い例ですね。複数の会計処理が認められているのは、画一化してしまうと業種や経済活動よって会計の実体をうま描写できない恐れがあるのからです。
しかしながら、複数の会計処理が認められ、それを状況によっていつでも変更できるのであれば、これは利益操作ができしまいます。また、前年度と比較する場合も影響が出てきてしまいます。これを防止するためにこの原則はあります。また、利益操作などを防止することによって、財務諸表の信頼性も高くすることができます。
ただし、継続性の原則は会計処理の手続きの変更を禁止しているわけではありません。正当な理由があれば変更できます。例えば、今まで認められていた会計基準が使えなくなった場合などです。理由によっては、認められている会計基準から認められている会計基準の変更もできます。なお、変更した場合は注記することが求められています。
⑥保守主義の原則
保守主義の原則は「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」というものです。
企業に生じた損失はすべて企業みずから負担しなけらばならない。また、将来の経営環境の予測しえない変化・リスクにも対応しなければならない。そこで企業は収益・資産を控え目に計上し、費用・負債は積極的に計上することで、企業の財務的健全性を確保することが必要とされています。その他有価証券の評価差額の処理方法として、部分資産直入法を採用するなどの例がありますが、例じたいがちょっと難しくなるのでやめておきます。
ただ、この保守主義の原則を過度に適応した場合は利益操作につながる恐れがあり、真実の原則に違反することになるので、一般に公正妥当と認められる会計基準の範囲内のみで認められるものとなります。
⑦単一性の原則
単一性の原則は「株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種主の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録にもとづいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない」というものです。
財務諸表を作成する場合、金融商品取引法や税法、会社法など、法律によって色々な形式の財務諸表を作る場合があります。そして、それぞれどのように財務諸表を表現したいかは違いますよえね。例えば、株主や債務者に向けた財務諸表は利益や純資産を多く計上したくなると思います。信用問題にもつながってくるし、そういう人たちには、良いということをアピールしないとこのような利害関係者は不安になってしまいますもんね。でも、税務申告目的では話が違ってきます。稼げば稼ぐほど税金はどんどん持っていかれます。そうすると、今度は利益を小さく見せたくなりますよね。そっちの方が税金が安くなるので、そう思って当然だと思います。このような矛盾した気持ちで帳簿を作るなると二重帳簿となってしまいます。もちろん二重帳簿みたいな不正はやってはいけません。
この原則はこのようなさまざま目的で財務諸表を作成するとき、形式は違っていても実質的には同じであることを要請しているものです。このようなものを実質一元・形式多元なんて言ったりもします。つまり、単一性の原則は財務諸表を様々な形式で作ったとしても、それは全て、正規簿記の原則にしたがって作られた会計帳簿から誘導法によって作ることを要請しているものだと考えられます。
〇重要性の原則
重要性の原則は一般原則ではなく、企業会計原則の注解に書いてあるもので「企業会計は、定められた会計処理の方法にしたがって正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで、他の簡便な方法によることも、正規簿記の原則にしたがった処理として認められる。重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される」というものです。
この原則は、ある項目が性質や金額からみて重要性が乏しいと判断された場合、厳格な会計処理や表示の方法ではなく、実務上の経済性を優先して簡便な方法を採用することができるというものです。極端な例を出せば、学校で使っているチョークなど考えてた場合、厳密な会計処理を行うのであれば、長さを測って、使った分だけ帳簿に計上するみたいなことです。正直やってらんないですよね。
この原則は、会計処理と表示の両面において適用されます。したがって、「正規簿記の原則」と「明瞭性の原則」に関係することになります。
最後に、今まで書いてきた各原則の関係性を簡単に図にしてみたいと思います。
こんな感じになると思います。〇の中の数字は企業会計原則の一般原則の番号なので、企業会計原則の一般原則を見れば意味が分かると思います。この一般原則は会計や簿記を勉強していたらどこかしらで、出てくると思います。まぁ、試験によっては内容を理解する必要はないかもしれませんね。穴埋めででることが多いかもしれません。たぶん全商の簿記でしたら穴埋めだった気がします。日商簿記1級になれば話は別だと思いますけどね。まぁ、なにかの参考になればうれしいです。
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参考文献
桜井久勝 『財務会計論講義』、中央経済社
経営能力開発センター編、『経営学検定テキスト4 経営財務』、中央経済社